世界はすべて宇宙人が創り出すシミュレーション【宇宙人探索#1】

うちゅう

今生きている世界。この世界に何か違和感を感じたことは無いでしょうか?
もしも、自分が見ている世界が、宇宙人が創り出した幻想だとしたら。
そんな話が実際にあり得るのでしょうか?

SFで見かけるこの設定は大昔から人々を魅了してきました。
映画「マトリックス」では、主人公ネオの世界はAIによって生み出された仮想世界。

映画「トゥルーマンショー」では、主人公の男が暮らすのはテレビ番組が作り上げた虚構世界。生まれた瞬間からすべて撮影され、世界中に放送、自分の人生がTVショーであることを知りません。

SFに端を発してか、この設定は最近では宇宙人と絡めた文脈でも用いられるようになります。
その橋渡しとなるのが、このチャンネルではおなじみ”フェルミパラドックス

フェルミパラドックスとは、一言で言うと

宇宙人がいるなら、いまだにその証拠が見つかっていないのはおかしい!いう問題提起。

名前の由来でもあり20世紀を代表する偉大な物理学者エンリコ・フェルミ本人は

みんなどこにいるんだろうね?」という言葉でこの問いを表現しています。

宇宙人はいてもおかしくない、
でもなぜ証拠が一切出てこないのか?

 

現代の宇宙人探しは”フェルミパラドックスの解探し”がメインテーマだと言っても過言ではありません。

「いったい彼らはどこにいるのか?」

 

今回ご紹介する説は、我々は宇宙人によって隔離、隠蔽、外部から観察されているという様々な説。

それが本当なら、見破ることは可能でしょうか?

 

そもそも現実とは何なのでしょうか?

もし現実自体がシミュレーションだとしたら?

 

さっそく見ていきましょう!

人工宇宙の諸説とその弱点

証拠が見つからないのは宇宙人が隠しているから

今や定番となった、この種の解答は、おそらく50年以上前に起源を持ちます。

動物園仮説

1973年、ジョンボール (John A. Ball) は以下のような動物園仮説を発表しました。

「宇宙人が見つからないのは、宇宙を牛耳る高度な文明が、私たちを動物園のように隔離して、
 意図的に接触を避けているから。」

ボールの理論では、地球外知的生命 (ExtraTerrestrial Intelligent = ETI) はどこにでもいるとのこと。
しかし、滅びずに高度文明へと発展するのは一握りだと言います。

The Zoo Hypothesis JOHN A. BALL ICARUS 19, 347-349 (1973)

彼らは「見つかりたくない」と思っていて科学技術で完全に隠蔽している。
そのため接触できず手がかりも出ないと主張します。

しかし、この説に対して様々な批判が噴出。

  • 検証可能性が無い
    ⇒確かめられない結論に意味はない。
  • 人間中心的
    ⇒なぜ「ネコではなく我々」に関心があるのか?

  • なぜ大昔に植民地に来ない
    ⇒単細胞だらけの地球でも保護したいと思うか?

  • 禁止を破る宇宙人もいるはず
  • 宇宙人の意向に左右される
    ⇒あらゆる宇宙人が我々に対して常に同じ態度で振る舞い?

etc..

その後、これらの批判を回避するため、動物園仮説の進化系が提案されていきます。

禁止仮説

生命を宿した惑星は地球に限らずすべて立ち入り禁止になる

1987年マーティンフォッグは禁止仮説を提案し、動物園仮説の批判をいくつか回避します。

彼の主張は以下

  • 「生命全般」が立ち入り禁止になるので人間中心的ではない
  • 単細胞も生命」なので大昔も立ち入り禁止

そのほか、独自の考察によって

  • 銀河法で禁止事項が設けられており禁止を破る宇宙人はいない
  • 銀河クラブのようなコミュニテイーが存在し宇宙人の意向は統一されている

なども追加し、動物園仮説を擁護します。

フォッグはまず単純なモデルを仮定、
銀河文明の起源、拡大、交流についてシミュレーションを行いました。

彼の結果をもとに銀河文明のシナリオ年表を作成すると

(1)100億年前、最初の PopulationⅠの星が銀河のディスク領域に形成
(2)90億年前、原始的生命の起源が誕生
(3)50億年前、銀河系に文明が誕生し、植民時代に突入
(4)49億年前、銀河系は植民されて定常状態に突入
(5)情報が最も価値ある資源とされ、銀河間通信が確立、相互利益のためのポリシーが共有され、銀河法の合意に至る
(6)46億年前、太陽系が形成される
(7)35億年前、地球は訪問を受け、原始的な生命が発見される
(8)太陽系が禁止区域に指定される

これらの結果からフォッグは
宇宙人は太陽系が存在する前から私たちの銀河に植民を始めている」と結論。

植民が進めば対立や人口問題なども解決、
異文明が混じり合って交流する時代(定常状態)が訪れると主張。

つまり、我々が存在する以前から、
銀河に住む宇宙人同士で ”銀河クラブ” のようなコミュニティが形成されていると言います。

そんな彼らが地球を支配しない最大の理由は、
「知識、情報」を最も価値ある資源と考えているから。

地球のような資産価値が高い星は「銀河法」のような決まりを作って守っており、
以後、生命を宿した、いかなる星を発見した場合も禁止区域に指定される。

というシナリオを導きます。

ただやはり批判は残ります。

  • コミュニティ形成に至らない
    ⇒宇宙の通信網がそこまで発達する見込みは薄い(銀河系の回転など困難が多い)

  • 彼らが存在を隠す必要はない
  • 検証可能な予測がない
    ⇒我々が禁止対象になっているかどうかを明らかにする方法がない

ここで再び検証可能ではないという問題にぶつかります。

「なぜ幽霊は見えないのか?」と尋ね「近寄ると消えるから」と答えられても納得できないように、
科学として成立しなければ永久にオカルトの域を出ません。

なるほど、宇宙人を追跡するためには反証可能性が重要
つまり真面目に考えるためには検証可能かどうかを軸に据える必要がありそうです。

 

ではそういった説は提案されているのでしょうか?

 

実はコンピューターの発達が進んだ今だからこそ、

そこそこの説得力と検証可能性を持ち、宇宙人に真面目に立ち向かえそうな説が出てきています。

プラネタリウム仮説

『我々の世界は仮想現実のプラネタリウム。
 宇宙に知的生命は存在しないという幻想を見せられている。』

2001年、SF作家でもあるスティーブンバクスターは、
宇宙に対する認識が根本的に間違っている可能性があるとして斬新なアイデアを持ち込みます。

我々はプラネタリウムの中にいて、それは進んだバーチャルリアリティ技術を用いて製造、
宇宙は空っぽだと見せるために設計されている。

それがもし本当なら、天井に映された”偽の星空”の向こうには宇宙人の明かりが灯っているはず。

プラネタリウム仮説では、
この方法で私たちを騙そうとする文明が、備えているべき必要な能力の試算も行います。

仮に100光年先まで広がる環境を完璧に偽装するためには、
(観測可能な範囲の)宇宙に存在する”質量エネルギー”よりも多くのエネルギーが必要になります。

さらに大きな範囲だと完璧に偽装するのはほぼ不可能に。

このようにプラネタリウムの運用には、偽装に必要な【情報量】を伝送するための【エネルギー】を用意して初めて可能になります。

であれば、エネルギー不足によってプラネタリウムの解像度低下や、情報の欠落などバグが引き起こされるはず。

そしてその欠陥こそが宇宙が人工物だという証拠になり得ます。

必要なエネルギーを数値的に見積もることができれば、検証可能性とも結びつきそうです。(次節)

 

また、そもそも、100光年以上を旅できれば、そこは宇宙人が作れるプラネタリウムの限界サイズの外側なので、全く別の宇宙が広がっている可能性もあります。

実際に行くことができれば、さらに進んだ証拠を得られるかもしれません。
100光年先の扉を開けたとき、我々の宇宙は人工物だったと判明するのでしょうか。

 

さて、話を戻して、再び宇宙人の立場から。

人の行動まで再現するような完璧な偽装シミュレーションはその気になれば作れるのでしょうか?

バクスターは原理的には可能だと言います。
その可能性は面白いことにブラックホール研究の中から生まれてきました。

ベッケンシュタイン境界

 

ヤコブ・ベッケンシュタインはホーキングらと同時期にブラックホールの熱力学の創立に貢献したことで知られている物理学者です。

重い星が重力崩壊を起こしてブラックホールが形成されると、もとの星が持っていた情報はブラックホールの内部に隠れてしまうと考えられています。

この隠された情報がブラックホールのエントロピーと呼ばれる量。

ベッケンシュタインはエントロピーには上限があることを指摘しました。

強い重力で光ですら抜け出すことができなくなるというブラックホール。
周囲の物体がブラックホールに落ちれば、表面積の増加を通じてエントロピーが増加すると考えられています。

一般化エントロピーが熱力学の第二法則を破らないようにdS>0を要請すれば

熱力学と情報理論を結ぶ関係式 S = I kTln2 から

となり(隠れた) 情報量は、範囲の広さ(R)とその中に存在する質量(M)で決まる上限を持つことがわかります。(情報量は量子状態(=ミクロな状態の数)と言い換えられます)

情報量が多いという事

では情報量が多いという事はどういうことでしょうか?

それは何通りも不確定なパターンがあって1個に決めるのが難しいという事でもあります。

プラネタリウム内のある瞬間を切り取ると
「Aという星が光る」
「Bという星が光る」
「AとBが両方光る」
「AとB両方とも光っていない」
など、多数のパターンがあって、どのパターンか決めづらい場合に情報量が多いと言えます。

しかし逆に考えれば、無限のパターンがあるわけではなく、どんなに取りつくしても結局は有限個のパターンしかないという事が分かれば、原理的に、すべてのパターンを網羅すれば完璧なシミュレーションが実行可能。ということが言えそうです。

今の場合、ベッケンシュタイン境界から無限の情報量は必要ないことが読み取れます。つまり上限までの有限の情報量によって、完璧なプラネタリウムは生成可能であり、これがバクスターがシミュレーション仮説を唱える根拠にもなっています。

完璧なシミュレーションを生成するための情報量が有限だとすれば、人間も例外ではりません。ある種のシミュレーションとして実行対象になるはず。

典型的な一人の人間は、適当に見積もって約 10^39メガビットくらいの情報量で表せそうです。つまり、その程度のビット数があれば、その人のいる範囲の完璧なシミュレーションが構築できそう、という事になります。

実際に多くの自然界の物質はベッケンシュタイン境界で許容される情報ストレージ容量がパンパンになるまでは使われていません。

では、宇宙人の計算能力だと、
どくらいの範囲にわたって完璧なシミュレーションが実行できるのでしょうか?

 

宇宙人の技術とプラネタリウムのサイズ

まずプラネタリウムの作り手のレベルを考察します。
カルダシェフによって分類されている知的生命の分類を用います。

 Indif / CC BY-SA 

  • TypeⅠ (KⅠ) 文明 (惑星文明) 惑星で利用可能なすべてのエネルギーを使用および制御可能
  • TypeⅡ (KⅡ) 文明 (恒星文明) 恒星系の規模でエネルギーを使用および制御可能
  • TypeⅢ (KⅢ) 文明 (銀河文明) 銀河全体の規模でエネルギーを制御可能

文明が知的になればなるほど大きなスケールでエネルギーが利用可能になります。

K1文明が生成できるプラネタリウムのスケール

地球の質量を利用可能とすれば~10^64bit、
地球表面のうち広さ 10000^2km×高さ1kmの範囲について完璧なシミュレーションを生成可能。

範囲は狭く、K1文明では、現代世界よりはるかに小さい古代シュメール帝国ですら完璧にシミュレートできず。

よって、プラネタリウムの不整合を原理的に見つけることは可能に。

K2文明が生成できるプラネタリウムのスケール

太陽の質量を利用すると考えて~10^70bit、
「半径6000Km、深さ10Km」にわたるシミュレーションを生成可能。

地球の半径は6371kmなので、
大航海時代のヨーロッパ人であれば完全に騙せるが、地球全体をフルにカバーするにはまだ小さい。

よって、プラネタリウムの不整合を原理的に見つけられるはず。

もし仮にK2文明がプラネタリウムを生成しているとすれば、深海はバグの宝庫かもしれません。
深海がこの宇宙の本当の姿という可能性も浮上します。

K3文明が生成できるプラネタリウムのスケール

K3文明は最高レベルの知的文明として分類されています。

銀河全体の質量を利用すると考えて ~10^81bit、見えている宇宙は全体では ~10^98bit。
この場合、半径がおよそ100AUほどの球の体積について完璧なシミュレーションが生成可能です。


(天文学では地球から太陽までの距離を1AUと表します。)

つまり「地球 v.s. 太陽間の100倍の距離」を半径とする球の内側までは、
最高に知的な宇宙人が生み出す完璧なシミュレーションの可能性があります。

人類が到達している最も遠い距離は?

実は人類は100AUという範囲にすでに到達しています。

それはNASAの無人探査機ボイジャー1号2号。

ボイジャー1号は1977年9月5日に打ち上げられ、地球から最も遠い距離に到達した人工物です。

2020年現在も運用されていて、現在は149AUに到達。同様にボイジャー2号は129AUに到達。

今のところ100AUを超えたのは2基のボイジャーのみ。
これら2機の探査機は実際に完璧であるはずのシミュレーション範囲をすでに超えています。

にもかかわらず、人類が所有する宇宙マップに記載されていない謎の天体や、存在するかもしれない「プラネタリウムの天井」には、まだぶつかっていません。

ただ、宇宙人もプラネタリウムの範囲を広げるため、必要ではないシミュレーションを省略している可能性があるかもしれません。
だとすると、まだまだシミュレーションを見せられている可能性も否定できません。

いずれにせよ、その場合、完璧ではない低級シミュレーションが間近に存在しているはずです。それは私たちの地球上かもしれないし、月や太陽なのかもしれません。
プラネタリウムの範囲を広げた代償として低級ゆえの不整合が身近に潜んでいることになり、原理的には見つけ出すことが可能でしょう。

この宇宙は実在すると確信するのが先でしょうか?

それともシミュレーションのほころびが出てしまうのが先なのでしょうか?

批判

当然ながら、プラネタリウム仮説に対しても、まっとうな批判が寄せられています。

オッカムのカミソリ

もし小さい子供に、虹ができる理由を聞かれたらどうやって答えますか?

「空気中の水分によって、光が屈折・反射してスペクトルに分解されるから」

なるほど、では以下の様に言い換えると?

神の力と空気中の水分によって、光が屈折・反射してスペクトルに分解されるから」

明らかに 神の力 は説明として不要に思えます。このように「ある事柄を説明するために必要以上に多くを仮定するべきでない」とする指針をオッカムのカミソリと呼びます。14世紀の哲学者・神学者のオッカムが多用したことで有名です。思考節約の原理やケチの原理と呼ばれることもあります。

つまり宇宙人の存在を説明するのにプラネタリウムを持ち出すのは、虹の説明に神の力を持ち出すのと同じように不自然だという批判になります。

「オッカムの剃刀に違反する。だから正しくない!」という事にはならないけれど、余分なものがあっては本当に大事なものが見えてこないというのは誰もが納得するところではないでしょうか。

その他にも批判があります。

  • 宇宙の仕組みに関する基本的直観に反する
  • K3文明が宇宙は空っぽだということを我々に納得させるためにそれほど手間をかけるのはほとんど妄想。

などなど。
プラネタリウムという不自然なものを持ち込むのが無理があったのかもしれません。

 

ところが、衝撃的な別の考え方が哲学界から提案されます。

「そもそも人間の意識自体がシミュレートされているのでは??」

確かに私たちの目の前に広がる景色、風景は、結局のところ、脳で処理され意識に浮かぶ映像にすぎません。

だとすると、脳や意識を通じて、我々、人間自体が直接シミュレートされている可能性があるのでは?

子供が発する「宇宙人がいないのはおかしい!」という問いは、単なるオカルトの枠を超えて、物理、哲学などあらゆる人類の知を巻き込み発展していきます!!

認識論と人工宇宙

なぜ我々の感覚で知覚した宇宙が我々の心と独立な現実であると信じるの必要があるのでしょうか?

その必要は無いのでは?

最も極端にプラネタリウム的な思想を推し進めれば、バークリー司祭が提案したように、外部世界は観察者の想像の中に含まれているという独我論的な認識になります。

「存在することは知覚されること」

独我論の考えでは、自分にとって存在していると確信できるのは、自分の精神だけであり、それ以外のあらゆるものの存在やそれに関する知識・認識も信用しません。

結局、世界は観念であり、たとえば目の前の机を叩いてその硬さを認識したとしても、「机の固さ」としてではなく、「知覚として」認識しているわけであり、「机自体」を認識していることにはなりません。

このように、経験することはすべて意識の一部で、全員が共有する外在の実在ではない。だから自分以外の他人が思考や感情を経験することも無く、他人ですらただそこに映っている観念であると。

私たちが経験するすべての物事はバーチャルリアリティの演出で、どのように対象が振る舞うかについて、生得の感覚データと理論のスクラップから無意識の心によってコンパイルされたもの。

全ては「意識が生み出したシミュレーション」という、ある意味、最も極端なプラネタリウムとも言えます。

この議論に関して、哲学界の”大ボス”も巻き込んだ論争に発展します。

 

シミュレーション仮説

オックスフォード大学教授 ニック・ボストロム は2001年以下のような論文を発表しました。

 “null0” / CC BY-SA 

ARE YOU LIVING IN A COMPUTER SIMULATION?

(あなたはコンピューターシミュレーションの中で生きている?)

と題された論文を発端に、この種の議論は Simulation-argument と呼ばれるようになります。

ボストロムが示したのは以下のこと。

テクノロジーが進歩した ”ポストヒューマン文明”(我々の次の段階に達した文明)は巨大な計算力を持っているはず。経験的事実に基づいて以下の3つの命題のうち少なくとも1つは真であるという

(1):人類はポストヒューマンの段階に到達する前にほぼ滅びる。

(2):どんなポストヒューマン文明も進化の歴史に関する巨大なシミュレーションを実行することはほぼない。

(3):我々は、ほぼ確実にシミュレーションの中で生きている。

(1)(2)(3)のうち少なくとも一つは真。つまり(1)が真の場合もあるし(2)が真の場合もある。(1)(2)(3)すべてが真の場合もある。

結局のところ、現在、私たちがシミュレーションの中で生きていない限り、ポストヒューマンの段階に達した私たちの子孫が、そのようなシミュレーションを実行することは決してあり得ない、という内容も引き出せます。

ボストロムは上記の内容をさらに以下のようにも言い換えます。

今、現時点で私たち人類がシミュレーションの中にいないのであれば、アンセスタープログラムを実行しようとするポストヒューマンの段階に人類がたどり着く可能性はない

アンセスタープログラム

少しわかりづらいかもしれないですが、(2)に関係して論文のキーとなる概念が出てきます。

それがアンセスタープログラム

ボストロムによれば「宇宙人であり未来人である彼らは Ancestor-Program アンセスタープログラム(直訳:先祖プログラム)と呼ばれるシミュレーションを実行しようとしている。」と。

アンセスタープログラムとは、たった一人の人間をシミュレートしたいのではなく、あちこちの時空にスキップできるように、あまねく人間の歴史を一度にシミュレートしようとするプログラムと思っても差し支えないでしょう。

つまりポストヒューマンの段階に達し、膨大な計算能力を得た未来人が私たち先祖となる人類全体をシミュレーションしているプログラム

私たちが私たち自身について消費動向や交通渋滞などをシミュレーションし予想するのと同じように、ポストヒューマンが人類自体をシミュレートする可能性は大いにあり得ます。

そのシミュレーション中で「特定のふるまいをする”意識”なるものを与えられ統計的なふるまいをしている1個体が自分である」という可能性は否定できません。

 

たとえば、簡単な計算を行ってみます。

シナプス同士の相互作用を一つの演算処理と数えるなら、あなたの脳は10の17乗、つまり10京に達する演算を毎秒行っています。さらに意識を1秒シミュレートするには10の20乗の演算が必要だと仮定します。

ここで平均寿命50年の人間を2000億人シミュレートすることにすれば、

1年が3000万秒、それに50年を掛けて、それを2000億人が過ごして、それに10の20乗の演算を掛けて。。つまり、毎秒100万×1兆×1兆×1兆の演算ができるコンピュータが必要になるでしょう。

ポストヒューマンの段階に達した未来人は計算能力は無制限にあるはず。

 

余談になりますが脳のベッケンシュタイン境界も見積もれます。平均的な人間の脳は1.5kgの重さで1260cm^3の体積。球に近似すると半径6.7cm。ベッケンシュタイン境界は bit。これが量子レベルで平均的な人間の脳を再現するのに必要な最大の情報量であり、人間の脳の状態の数 よりも小さいであろうことを意味しています。

ボルツマン脳

むしろ宇宙の始まりが単一の脳からだったのかもしれないという説すら存在します。

そのアイデアはボルツマン脳とよばれており、その名のもとであるルートヴィヒ・ボルツマンはエントロピー増大の法則など統計力学にとって重要な貢献を果たした物理学者。

一般的にエントロピーは増大しますが、ごくわずかな確率で逆行する可能性もあります。本来ならば無視できるくらい小さい確率だけれど、宇宙が誕生し成長する確率と比べると無視できません。むしろエントロピーが逆行する確率の方が現在の宇宙が生成される確率よりも現実的と言えるでししょう。

ボルツマン脳のアイデアは、アメリカの哲学者ヒラリー・パトナム(1926-2016)が考案した思考実験「水槽の中の脳」とも重なる部分があります。

「科学者が、ある人から脳を取り出し、特殊な培養液で満たされた水槽に入れる。そして、その脳の神経細胞をコンピュータにつなぎ、電気刺激によって脳波を操作する。そうすることで、脳内で通常の人と同じような意識が生じ、現実と変わらない仮想現実が生みだされる。このように、私たちが存在すると思っている世界も、コンピュータによる『シミュレーション』かもしれない」

ボストロムの宇宙人に対する見解

ボストロムの宇宙人に対する見解を要約すれば中立的なものに思えます。

なぜなら彼の議論はあくまでもアンセスタープログラムの議論にフォーカスしており、宇宙人の存在にフォーカスしてはいないからです。

彼はインタビューに以下の様に答えています。

Q.「もし私達がエイリアンによってシミュレーションされていたら?」

B「その主張は人間中心すぎるのでは? 正式にはシミュレーション仮説は、我々が知的文明によってシミュレートされている可能性を含む。が、その含みは余計なものだと思う。」

「シミュレーション仮説が正しいとすれば、私たちはコンピュータの中に住んでいるし、コンピュータを作り上げるような文明はいずれにせよ定義から自分の”ホーム”文明だから。

もちろんシミュレーターの祖先が、私達以上に、別の知的文明の方が似ている場合もあり得る(仮にいるとして)。その意味で私たちが宇宙人っぽい子孫によってシミュレーションされるのは可能。」

「より一般に、シミュレーター本人は自分の先祖とは全く異なった多くのシミュレーション人物を作り出すかもしれない。もしくは、シミュレーター本人が住んでいるのとは全く異なる世界そのものを作るかもしれない。私たちが、そのようなシミュレーションに住んでいることはありうる。

シミュレーター本人(もしくはその先祖)が私たちに似ているという可能性を見積もる方法は知らないし、彼らの世界が私たちが経験するような世界に似た世界だということを見積もる方法も知らない。」

N. Bostrom, Anthropic Bias: Observation Selection Effects in Science and Philosophy

宇宙=シミュレーション 物理学との共存

物理学者は哲学者とは対照的に仮説に対する観測可能な結果を見つけることに興味があります。

スーパーコンピューター「京」などで知られる、巨大な計算機シミュレーションを用いて自然法則を解明しようとする分野からの考察が活発になります。

格子QCD

素粒子とはこの宇宙を構成する物質の究極にミクロな姿。

そのうちクォークは原子の材料として有名です。QCD(Quantum ChromoDynamics)とはクォークに作用する4種類の力(重力、弱い力、電磁力、強い力)のうち強い力を説明する理論。

物理の強みは出来事を予言したり現象を説明できる点。理論が正しいかどうかを確かめるには計算した結果が実験結果を正しく予言するかを調べる必要があります。

ところがQCDの場合そもそも計算が難しすぎて解けません。

こうした解析的に扱いにくい現象をシミュレーションによって理解しようとする枠組みを与えるのが格子QCDです。

空間3次元と時間1次元を格子状に区切り、格子点にクォークを配置、辺の部分には強い力を対応させます。コンピューター内部では各場所に数値の塊を割り当てているだけですが、QCDという法則に基づいて値がちりばめらているので現実世界を模しています。このサンプルのもとでクォークが伝搬する様子やグルーオンを生み出す真空の構造を調べることができるようになります。

現時点の計算機の能力だと格子サイズは限定されてしまいますが、格子QCDはすでに多くの実験に成功しており、たとえば、陽子の質量は2パーセント未満の誤差で理論的に決定されています。またIBMのBlueGeneなどのスーパーコンピューターのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) のベンチマークとしても利用されています。

さらに高精度な結果を得る方向性として、「格子を細かく大きく」、軽いクォーク質量を設定、カイラル対称性を高める、などが挙げられます。もちろん​​格子が細かくなるにつれて計算コストは劇的に増加するでしょう。

もし十分なHPCリソースが利用可能なら、未来の科学者は、分子、細胞、人間、それを超えて完全なシミュレーションを行おうとするのは自然に思えます。

格子QCDを「宇宙シミュレーションの新しい科学」とみることもできます。

浮かび上がるシミュレーションの痕跡

ボストロムと格子QCDの性能向上に触発され、

宇宙がシミュレーションである可能性を真面目に取り扱った論文も登場。

Constraints on the Universe as a Numerical Simulation Silas R. Beane,1, 2, Zohreh Davoudi,3, y and Martin J. Savage3

シミュレーション「される側」が「する側」を発見する可能性が、常にあると結論します。

なぜそう言えるのでしょうか?彼らの主張を追ってみます。

まず格子QCDの計算プログラムの進歩を未来に外挿することで必要なシナリオを検討します。

人類がそれまでに滅亡しないと言えるのか、ムーアの法則が本当にそのまま続くのか、さらにはシンギュラリティーと呼ばれる状況が来るのか、など様々な懸念はありつつも、図にプロットされるカーブは、与えられた格子間隔とサイズにおいて自然界の基本的な力とその関係する量をシミュレートする能力の指標として見ても良さそうです。

つまり宇宙シミュレーションの発展はある意味で格子QCD計算の発展と並行すると想定できます。

では未来にはどういったシミュレーション技術が用いられそうでしょうか?

シミュレーション方法、アルゴリズム、ハードウェアは未知であるとしつつも、現在のシミュレーションで使われているもののいくつかが残って使われているのは十分に考えられます。

そこで未来でも格子QCDと同じく立方格子構造を持つシミュレーションが採用されている可能性に着目し、他の要素は無視します。

ここまでで宇宙が立方格子上のシミュレーションだと仮定してもそこまで悪くなさそうです。

さらに、我々をシミュレートしているであろう”シミュレ-ター”は、シミュレーションの開始時点で、最もチープだと思われる格子セッティングを採用しているはずです。先ほども説明したように高精度な格子計算を行うには我々の技術はまだまだ発展途上にあります。

よって、現時点での我々の宇宙は、格子ゲージ理論の歴史的発展を参考に、未改良のウィルソンフェルミオンを用いた数値計算の初期段階にあるものと想定します。

このシナリオのもと、現実に見いだされる可能性がある量を探します。

するとシミュレーションの「格子間隔」に対して、実際の観測値から様々な制限が付けられます。

物理では長さをエネルギーの逆数(長さ=1 / エネルギー)で表します。格子間隔をbとすると、その逆数1/bに対して、ミューオンのg-2という実験値からは1/b=(3.6 ± 1.1)×10^7GeV 、微細構造定数(α)と呼ばれる値からは1/b >4 × 10^8GeV、中でも最も強い限界を与えるのが宇宙線の高エネルギーカットオフからで 1/b >10^11Gev と制限が付けられます。

カットオフとは、簡単に言えば、ある値を境にそれよりも大きいエネルギーを持つ宇宙線が急に見つからなくなる現象近年の観測では、飛来する宇宙線の量は、高エネルギー領域 (10^20 eV近く) から減少を始めるという結果が得られています。

arXiv:astro-ph/0501317

その原因は、宇宙を満たす弱い光(CMB)との衝突によってエネルギーを失うためと予想されていますが(GZKカットオフと呼ばれます)、依然、宇宙の大きな謎として関心を集めています。

ところで、格子は、間隔を小さくしていけば回転対称性が現れます。つまりグルグル回しても各グリッドが一致します。しかし間隔を広くしていけば各グリッドは回転しても一致しにくくなります。

上で与えられたような格子間隔への制限のうち、宇宙線からの情報だけが唯一、格子の回転対称性の破れから導かれる量になります。つまり格子がどのくらい回転対称性を失っているのかに関連しています。

格子間隔がGZKカットオフのエネルギースケールに対応する長さの場合、宇宙線のスペクトルは、見る方向によって衝突ムラによる著しい違いがあると考えられます。そしてその違い具合こそが、立方構造をもつ格子の存在を裏付けるような、回転対称性の破れに由来するパターンだとみることができます。

しかし、カットオフに比べてずっと小さい格子間隔(すなわちずっと大きいエネルギースケール)では、GZKメカニズムがそのエネルギースケールの宇宙線をカットオフし尽くしてしまうので、スペクトルが存在せず背後にある格子構造も隠れてしまいます。

つまり

最高エネルギーの宇宙線の分布格子構造の情報が反映されているという事になります。

逆に言えば、

宇宙シミュレーションで用いられる格子間隔はGZKカットオフを存在させるために、もしくは格子間隔それ自体が宇宙線スペクトル中にカットオフを提供するために、b<10^-12 fmでなければならないとも言えます。

このことは、宇宙人かもしれない ”シミュレーター” 側に対する格子の使用上の制限にもなっていますし、ひょっとすると本当に現実の宇宙が格子構造を備えており、それが原因で宇宙線のカットオフが起こっているという見方にもつながります。

驚くべきことに、宇宙線の最高エネルギー成分の角度分布を格子の静止系から見た場合に、立方対称性を示すらしく、そして見る方向によって著しい違いがあるとのこと。。

宇宙最大の謎の一つ「高エネルギーの宇宙線が飛んでこない」原因も、宇宙人がシミュレーションのために導入した格子のせいなのかもしれません。。

宇宙が有限であり、それゆえシミュレーターのリソースが有限であると想定すれば、シミュレーションを含むような体積は有限となり、そして格子間隔もゼロではありえない。よって原理的にシミュレーション「される側」が「する側」を見つける可能性は常に残っている、と著者は締めくくります。

 

【私たちはシミュレーション】という宇宙人探しの解答は

物理、哲学、そして計算科学、他の分野にどんどん伝染していきます。

さいごに

皆さんはどう思いますか。宇宙人をめぐる理論。

フェルミパラドクスが内包する問は思った以上に我々にとって本質的かもしれません。

 

物理学、哲学、あらゆる人類の知を巻き込んでの議論がされています。

そしてフェルミが言った「宇宙人はどこにいるんだろうね?」は

もはや冗談では済まされず、ますます、無視できない本質的な問いになってきてるように感じます。

 

もしかすると、今見ているパソコン画面、Youtubeの画面、部屋の景色も、

すべて宇宙人が作り上げたシミュレーションかもしれません。

 

もしかすると、あなた自身も。

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